高野山一人旅でみた秋を忘れない

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山の中を走る一本の線路。

古い駅舎に止まりながら電車はゆっくり、くねくねと登っていく。

車内は和歌山の世界遺産である高野山に行く人で賑わっていた。

私と同じく1人で来ている人も見かけたが、ほとんどが友人、夫婦、家族、カップル。

さらに途中の駅で登山ツアーの団体も乗ってきた。

車内の楽しそうな会話を聞きながら、今日の登山は最高に気持ちいいだろうなと思った。

澄んだ空に紅葉した木々、こんな恵まれた日はない。

窓からは山の田舎風景が見える。

きれいでずーっと見入ってしまう。

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この旅の景色を、もっと大人になった私は思い返すのだろうか。

高野山までのローカル電車の中でひとり、そんな心配をしたことを、懐かしくあたたかく、思うのだろうか。

車内の床を照らす木漏れ日と、秋の風で揺れ落ちる枯れ葉をながめ、この永遠に登り続けそうな電車の中で、目に映った綺麗なものを、私はいつか忘れてしまうのだろうか。

 

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行きの電車でこんな感傷に浸ってしまうのだから、高野山はすごい。まだ着いてもないのに。

今の私に自分と向き合える高野山はうってつけだったなと思い、このポエムをノートにメモっている。

 

11/14 土曜日

都会の喧騒を避け、一人で高野山へ。

なぜ一人なのかというと、土曜の始発で和歌山へ行き、日曜の最後の便で帰るハードな日程に友人を誘う勇気がなかったからで、

なぜ高野山なのかというと、私は日本の世界遺産を制覇する目標があるからだ。

紅葉を見て、のんびり観光して気を休めようと思ってはいるが、せっかちな性格がそうはさせない。

 

関西空港へ着いてからギリギリ間に合うかどうかという南海電鉄に乗るために、マスクが鼻と口に吸着するくらい走った。背中のリュックがポンポン跳ねる。

一人旅はダッシュできるからいい。

世界遺産きっぷというお得なきっぷを買うと、窓口の男性が急いで説明してくれた。さらにダッシュして電車に飛び乗る。旅のはじまりにふさわしい疾走感だ。

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9:00

高野山のパンフレットを見ながら、電車に揺られて2時間。和歌山のローカル電車に乗り換え、山を登っているところで早速ポエムを考えてしまい、自分で涙ぐんだ。

一人旅はポエムを考えて涙ぐめるからいい。

 

隣に座っていた登山ツアーのおばあちゃんが「私、ちゃんと登れるかしら。」と言った。付き添いのおばちゃんが「みんないるから大丈夫よ。」と励ましていた。

私は1人。手元のスマホの充電は20%を切っていた。今日の宿までどうやって行くんだっけな。

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まぁなんとかなるかと思って、窓の外に流れるきれいな紅葉を見ていた。

 

11:45

高野山駅についた。

旅ムービーを作るために持ってきたハンディカムを出し、駅の看板を撮った。

記念に看板と一緒に撮ってもらいたくて誰かに頼もうとしたが、みんなそそくさとバスに乗ってしまい声をかけられなかった。

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私が乗るバスはまだ来ない。

駅をぐるりと一周しても時間が余ったのでノートに駅のスタンプを押した。

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バスに乗り、1年半前に初めて北海道まで一人旅に行った時のことを思い出した。

その時は感動を分かち合える人がいたらなぁとか、夜に1人は寂しいなぁとか思ったのだが、今は心から一人旅を楽しんでいる。

 

大門のバス停に降り立ってすぐ、今年いちばんの紅葉を見た。今年は秋がなかったなと思っていたら、こんな山奥にとどまっていたのか。

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門には2体の大きな金剛力士像がいて迫力があった。

毎回建造物を勉強してから旅に来ようと思っているのに、一回も満足にできていない。スーパーにマイバッグを持っていこうと思っているのに毎回忘れるのと似ている。

 

一人で来ているくせに強欲ではあるが、このきれいな紅葉と一緒に撮ってほしい。

同じく1人で来ている頼みやすそうな人を探したが、私以外に1人で来ていたのは立派なカメラたずさえた、ハンチングおじさんしかいなかった。

夢中で紅葉を撮っていたので、私を撮ってくださいとは言えなかった。

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12:30

満足するまで紅葉を撮り、先に進むとご飯屋さんに列ができていた。朝から何も食べていないが、別にお腹は空いていない。

一人旅はご飯を食べなくてもいい。

私は元々少食なうえに、一人でご飯屋さんに入ると、食べるのが遅いせいで回転率が悪くなり迷惑をかけているんじゃないかと思ってしまう。繊細なのだ。

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歩いている途中、カメラが趣味の夫婦がもみじの浮く水面を撮っていた。そのあと私もいいなと思って撮った。

あなたの見つけたいいやつ、私もいいと思います、って言ってたら会話が生まれていたのかなぁ。

 

10分ほどのんびり歩くと、壇上伽藍(だんじょうがらん)という真言密教の道場が集まったところについた。金堂と根本大塔の中を拝観しようしたが小銭がなかったので、両替ついでに大日如来さまのお守りを買った。

いつも旅行に来ると自分のお土産を買い忘れてしまうのだが、今回は1番最初に買った。一人旅だもの。

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買うつもりはなかったが、導かれるように買ってしまったものにはきっと縁があるのだろう。

 

13:00

人が増えてきた。

人混みを避けようと、大師教会へ行き阿闍梨(あじゃり)のありがたい話を聞く「授戒」の予約をした。受付の同い年くらいの好青年な僧に、名前とどこからきたかを伝えてお堂へ向かう。

 

授戒を受けるのは私を含めて5人。

暗いお堂に祭壇があり、ロウソクが2本灯っていた。まさに儀式。

法を説く僧侶である阿闍梨が出てきて、サンスクリット語でお経を一緒に唱え(私たちは心の中で)、高野山と弘法大師のお話と、菩薩十善戒を教えてもらった。

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菩薩十善戒というのは、幸せに生きる仏の教えのようなものだ。

無駄な殺生をしない、のではなく殺すより生かしたほうが自分も心地よいという「ほとけごころ」に気づくこと。

嘘をつかない、のではなく嘘をつくより嬉しいこと言ったほうが自分も相手も穏やかになるという「ほとけごころ」を保つこと。

他にも盗みをしない、倫理を失った関係に溺れないとか10個を聞いた。

 

でも1番心に残ったのは、「これからも国民の安寧と幸せのために修行に励んで参ります。」という僧侶の言葉だった。カッコいい。そんな聖人日本にいたんだ。

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14:30

心がきれいになった後は、仏教の総本山である金剛峯寺(こんごうぶじ)へ。今まで行ったお寺の中で1番広かったしスケールが大きかった。

そのあと霊宝堂にいったが入場料が高くてやめた。美術館のようなところだ。

 

それから奥の院までの道を散策。

奥の院は明日の早朝に行く予定なのでじっくり見るつもりはないが、途中のお店や街並みを見ておこうと思って歩いた。古い商店街が並ぶ。

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名物であるやきもちや酒まんじゅうを買って食べ歩き。そういえばまだ何にも食べてなかった。

カップルの後ろに並び、私も酒まんじゅうを1つ買った。前を歩くカップルが「うまっ!!めちゃうまいよ!!」と言いながら食べ、私も後ろでほおばって、ほんとだ!うまい!と思った。

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気に入った風景をカメラに収めながら歩き、奥の院の入り口に着くともう16時だった。

スマホの充電を見ると1%。今すぐにホテルに行かなければと踵を返した。

 

バス停のベンチに座りホテルの住所と行き方を急いでノートに写した。駅を降りてガスト・セブンが見えたら右、すぐ左、またすぐ右。

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歩くと見える順に目印も書いた。ローソン、トヨペット、コメダ、ほっともっと、吉野家、ワークマン。なんでもあるな。

 

18:30

電車で1時間かけて山を降り、駅から20分歩いて無事ホテルに着いた。殴り書きのノートを開かずにたどり着けた。記憶力には自信があるのだ。

 

本日の宿はHOTEL46。

新しくリフォームされたホテルの受付には、白髪のかわいいおじいちゃんがいた。チェックインすると、gotoクーポンを6000円ももらった。

こんなにもらう人は初めてだよ。使い切れるかな、、。」とオーナーのおじいちゃんが心配してくれた。ちなみにおじいちゃんがシローだからHOTEL46だそうだ。

なんとか使います!」と言ったが、たしかに今日と明日で使い切るには多い。

 

近くの温泉でクーポン使えるか、シローさんが電話して聞いてくれた。おまけに温泉が半額になる割引券までくれた。さらにクーポンが使える近くのスーパーまでの行き方も教えてくれた。

一人旅は人の優しさに触れられるのでいい。

 

19:00

温泉まで夜道を15分歩いた。

温泉はローカル感満載の地元の人しか来ないようなところだった。湯も熱い。

湯冷めしないように長く浸かったら、ゆでだこみたいに顔が真っ赤になった。

のぼせたけど冷たい夜風が気持ちいい。ゆっくり歩いて帰った。

 

夜の田舎道を歩くと、本当に人が住んでいるのかなという家がたくさんある。

真っ暗な道なのに、台所の水の音が聞こえて、お風呂のいい匂いがして、空には星が光っている。

地元の夜もこんな感じだったよな、と思った。

静かで、冷たくて、なにもなくて、

悲しいほど星がきれいなのだ。

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教えてもらったスーパーで夕飯を買いホテルに帰ると、シローさんが「明日はどこに行くの?」と聞いてきた。

朝早く奥の院に行こうと思っています。」というと「そしたらそこでクーポン使えるよ!」と嬉しそうに言った。かわいかった。

 

旅行に来たのに部屋でカップラーメン。

誰かと来ていたら許されない行為かもしれないが、一人旅はいい。

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好きな切り干し大根と、シャインマスカットは晩餐用。のりまきは明日の朝ごはん。

和歌山テレビで紹介された!とポップのついていたどら焼きとクリームパンは明日のお腹空いたとき用に買った。

マカダミアナッツとエブリバーガーはおやつだ。買いすぎている。

 

ご飯を食べてから、暖房をつけてすぐ寝た。

すごく幸せな一日だった。

私は一人旅向いてるかもしれない。

 

11/15 日曜日

6:00に目覚ましをかけていたが5:00に目覚めた。朝ごはんを食べ、支度をして6:00に部屋を出たら、シローさんがもう受付にいた。

待っててくれたのかなと思うと嬉しかった。

もう来ることはないかもしれないけど、この町を忘れないようにしようと思った。

 

ホテルから学文路(かむろ)駅まで25分歩く。

昨日見た真っ暗な家たちの素顔を見て、人が住んでそうで安心する。まだ6時台なので人とすれ違うことなく駅までついた。

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6:40の電車に乗ると高野山行きはガラガラだった。私と、ハンチングおじさんの2人しかいない。朝の風景を眺め、高校生の時は毎日6:40の電車に乗っていたなぁと思った。

 

旅は普段思い出さないことを思い出させてくれる。

あの時は学校が嫌だったなとか、母に迷惑かけたなとか、その時の感情までよみがえる。

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あの感情、私はまだ鮮明に覚えてるんだ。覚えてるってことを忘れてた。

そういう、ふとしたきっかけをくれるのが旅の非日常なのだ。

 

8:00

奥の院に降り立ち、2キロの参道をゆっくり歩く。最高の朝だ。

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奥の院の参道には有名な武将のお墓がずらっと並んでいる。冷たい空気を胸いっぱいに吸い込んではく。

あぁ、なんていうんだろう、空気が、高潔で、神聖だ。

 

奥の院の1番奥には弘法大師がまだ瞑想を続けていると言われる、灯篭堂と御廟(ごびょう)がある。暗い灯篭堂に入ると、何とも言えない感覚になった。

胸が詰まりそうな、大声で叫びたいような、泣きたいような。

天井にびっしりとぶら下がるオレンジ色の灯篭が、穏やかな弘法大師のように柔らかく光っている。

この感覚を率直に言うと、魂が震える、だ。

線香花火の、赤い玉みたいに小さくはじけてくすぶるのだ。

 

一緒にしていいのかわからないが、私は2度この感覚を体験したことがあると思う。

1回目は高校生の時、心の支えにしていた好きなバンドを初めて生で見た時で、2回目は昨年、サザンオールスターズを生で見た時だ。どっちもライブである。

アーー!!生きてる!!聞いてる!!胸が苦しい!!わけわかんない!!泣ける!!

アーーーー!!となる。それだ。

そういえば参道を歩いているときはライブ前のドキドキに似ていた。

 

いやちょっと違う。

当たり前だが、ライブより心の落ち着きがある。

 

お堂の右左には長年絶やされていない火が燃えていた。左側の火では僧が護摩行をしていたので、私も家族の幸せを願って護摩の札を書いた。

灯篭堂の裏側に、弘法大師の御廟がある。

金色の花のアートと大木の中央には質素だけど厳かな鳥居がある。その奥に弘法大師がいるのだ。イチョウの枯れ葉で埋め尽くされた地面のおかげで、一面が金ピカに見えた。  

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こんなに心を揺さぶられてしまうとは、私は僧になる素質があるかもしれない。

 

11:00

それからgotoクーポンを使うべくお土産屋さんを巡った。

絵を描くのが上手い同僚に、菩薩を写し描きできる写仏セットを買い、姉と自分用に干支の菩薩シールを買った。

 

お土産を買い終えて外に出ると、足の疲れがどっと出てきた。もう少し紅葉を撮ろうと思い、行けるところまでゆっくり歩いた。

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14:00

駅に着き、午後の陽気で暖かい車内で、ウトウトしながら関西空港まで戻る。

途中、大阪に住む友達と夜ご飯を食べた。

それから2人で大阪の海を見に行った。

夜にふさわしい穏やかな海で、寝転がって星を見た。

強く光る星を探して名前を覚えたが、それっきり思い出せない。

 

月曜日が近づくにつれて、ゆっくりと忘れていくこのときを、またいつか鮮明に思い出せるように、空港でブログを書いている。

 

 

水曜日

仕事が終わり、自動ドアを出て、いつものようにカバンの中からワイヤレスイヤホンを探す。

手の感触を頼りにイヤホンと一緒にカバンから出てきたのは、高野山で食べ歩きしたおやきのレシートだった。

私が見た秋は、東京にも来るのだろうか。

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一人旅はいい。

 

 

一人旅Movie作りました。


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高野山の秘密 (扶桑社BOOKS)

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