喉の風邪を引いた。
一昨日の朝、起きたら喉に違和感があり、日を追うごとにどんどん悪化した。
ふと、喉がどのくらい腫れているのか気になって、写真を撮ってみようと思った。
鏡の前で口を開け、スマホのレンズを口の前に持ってきて、鏡越しに画面を見ながらボタンを押す。
正常な状態が分からないが、痛みの強い右側が腫れていて、食道へ続く穴が狭くなっていた。
自分の喉ってこんな感じなんだ、としばらく写真を見ていたら、奥歯に小さな黒ずみを見つけた。歯医者行きたい。
それからも何度か写真を撮ってみたけど、腫れ具合は全然変わっていなかった。
そうそう動きのあるものじゃないらしい。
ところが今日の朝、喉の腫れがピークを迎えたので写真を撮ったら食道への穴がさらに狭くなっている。
変化が見られて嬉しくもあったが、こんなに痛くてもこの程度の変化なのかと思うほど微々たる変化だった。
流石に痛みがひどいので、医者へ行った。
郷ひろみと布施明を足して2で割ったような先生は、私の喉を見るなり「扁桃腺がまだあるね。」と言った。
別の医院で扁桃腺が大きいと言われたことを伝えたら「喉に番犬がいるんだよ。」と言い、「扁桃腺は番犬みたいにウイルスや細菌が来たらすぐにワンワン!と強く反応してしまうんだ。」と説明してくれた。
私は喉に犬を飼っていたのか。
さらに「20歳を超えても扁桃腺があったら、もう一生の付き合いだね。」とも言われた。
全く知らなかったが、扁桃腺は大人になるとほとんどの人はなくなるそうだ。
たまに大人になっても扁桃腺が残っている人がいて、そういう人は喉風邪をひきやすくなるらしい。
思い返すと、たしかに風邪を引くときは必ず喉が最初に痛むし、声が出ないほど腫れたり、1ヶ月くらい腫れが治らないこともあった。
何度も「今はやめてくれ!」と思うタイミングでひいた喉風邪を思い出し、喉の犬を恨めしく思った。
病院を出て、薬局まで行く途中、先生が「ワンワン!」のところで両手を丸めて犬のジェスチャーをしていたことを思い出し、先生は犬が好きなのかなと思った。
可愛らしく伝えてくれたのだと思うが、
喉に犬を飼っていたと知っても、吠えないように躾けられもしなければ、優しい子に育てることもできないし、なんなら30年近く番犬をやってきたプライドとかありそうで仲良くなれなそうだし、
私が飼っているのか逆に飼われているのか、感謝すればいいのか迷惑だと思っていいのか、よくわからないし微妙な距離感だなと思った。
でも私は一生喉にこの犬を飼い続けるらしい。
たぶん茶色い芝犬だと思う。
家に戻り、今朝撮った喉の写真の見返しながら、腫れた扁桃腺の陰からこちらをのぞく芝犬を想像した。
喜ぶでも怖がるでもない真面目な顔をした芝犬が、ただじっとこちらを見つめている。
そう考えていると、自分の中にもう一つ別の意思があるように思えた。
それから歯医者の予約をとった。
喉の犬は歯医者の水が好きだろうか。