寒い夜だった。
夕飯を買いに行きたいけど、冷たい雨と風が吹いていて絶対に外に出たくない。
こういう時はウーバーイーツをしよう。
早速、大好きなカオマンガイを頼んだ。
配達員を確認すると、40代ぐらいのさえないおじさんが来るらしい。
こんな寒い日に大変だよなぁと、ふとおじさんのプロフィールを見てみたら、配達の評価は満点。
スムーズな受け渡しが得意のようで安心した。
さらにスクロールしていくと、ウーバーイーツをやっている理由という欄に「子供の為」と書いてあった。
なんて素敵なんだろう!!
本当のことは何もわからないけど、勝手にいい話に仕立て上げて、勝手に感動した。
これはもうおばさんの入り口に立っていると思う。
とある事情でウーバー配達員をしている父親とその愛しき子のために、私も何かしてあげたい。
ちょうど手元にお菓子がたくさんあったから、パウンドケーキを2つ小袋に入れ、雨の中の配達への感謝と差し入れですというメモを添えて、玄関のドアに貼り付けておいた。
これならドアの前にカオマンガイを置くときに気づいて、持って行ってくれるだろう。
1日の仕事を終えて配達員が子どもにお菓子を手渡すところを想像した。
珍しいお菓子に喜ぶ子ども。
嬉しそうな様子を見て、自分の分まで子どもにあげる優しい父。
なんて素敵なんだろう…。
そんな幸せの片隅にいられるだけで、厚かましいけどいい気分だ。いや、細かいこと考えずに、素直に嬉しい。
こんな寒い日だけど、温かい気持ちでカオマンガイを待った。
しかし。
ウーバー配達員がなかなか来ない。
どうして。
注文した時は7:35〜7:45ぐらいに届けますと画面に書いてあったのに、7:55になりそうと出ている。
ついさっき「配達の95%は時間通りに届きます」という謳い文句を見て、へぇ、さすがここまで普及するウーバーはすごいじゃん、と思ったのに。
なおさらどうして。
評価満点の配達員だから、何かトラブルがあったんじゃないかと気になる。
しかし、配達員のマークはノロノロと地図上で動き、ようやく私のカオマンガイを受け取ったようだ。歩いてんのかと思うほど遅い。
もう家に着く頃にはカオマンガイが冷え切っているんじゃないかと心配だけど、
もう一つ気がかりなのはドアに貼り付けたお菓子だ。
こうなると話が変わってくるのだ。
配達員の遅れにより、ストレートな、純な厚意としてお菓子を渡せなくなった。
どうしても雑味が入るのだ。
今、ウーバー配達員は、遅れで満点評価を揺るがす緊張と、遅れている申し訳なさが相まって、かなりブルーなはずだ。
これが雑味。
私も遅れているウーバー配達員に対して、めちゃくちゃありがとう!!!の気持ちから、まぁ、サンキュ。くらいの気持ちになった。
これが雑味。
こうなると、お菓子があるだけなのに裏読みがはじまる。
ウーバー配達員は、これを持って行ったら図々しい奴だと思われるかもしれない、と思って素直に受け取れない。
ストレートな厚意で渡せないなら、いっそドアに貼ったお菓子を回収してしまおうかと思った。
しかし、私は私で一度ドアに貼り付けたお菓子をたかが遅れただけで回収しようなんて考える自分の小ささに飽きれる。
どうか。
配達員が、精神の図太さを持ち合わせていますように。
図々しく、私の思惑や配達の遅れに気兼ねなく、お菓子を持っていきますように。
ドキドキしながら待っているとウーバーイーツの画面に配達完了の文字と自宅の前に置かれたカオマンガイがブレた写真が出てきた。
なるほど、ちゃんと置いたよと証明するのね。
ドアを開けてカオマンガイを取ろうとしたら、お菓子がそのまま残っていた。
なんだろうこの虚しさは。
純粋に、いろんな雑味を抜きにして、私は自分の厚意を受け取って欲しかったんだ。
見つけたのに受け取らなかったのか、ただ急いでいて気づかなかったのか、私が常時ドアにお菓子貼り付けてる人だと思ったのかはわからない。
配達員から「遅くなってすみません。」とメッセージが入っていた。
遠慮なんていらなかった。
図々しく持って行って欲しかった。
今度から厚意は面と向かって堂々と渡そう。
そして、向けられた厚意はありがたく図々しく受けとろうと思った。
届いたカオマンガイをあけたら、結構左に傾いていた。
なんだよ、雑味が多すぎるよ。